テーマ:一人暮らし

僕のカレーと君の謎

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「それってアダムスファミリー限定でしょ?」
「あら、あの子って、どの映画でもそんな感じじゃなかった?」
美樹の中のクリスティーナ・リッチのイメージはアダムスファミリーかキャスパーか、よくいってジョニー・デップと共演したスリーピー・ホロウで止まってるらしい。インパクトの強いキャラクターを子役の時にやってしまうと、そのイメージが長く付いてしまうという悲しいお手本になってしまった元天才子役に同情しつつ、冷蔵庫からカレーのルゥを取り出す。
「で?」
「でも、その人形、ほら、ビスクドールっていうの?それのアンティークでかなり高価な物だったらしいの。娘さんがテレビで見て欲しがって、ご主人が頑張ってネットオークションで手に入れたんだって」
「誰から聞いたの?」
「奥様」「なるほどね」
「ご主人、娘さんを溺愛してるみたいだから。まあ実際、可愛くて優しくて素直で頭のいい子だから、溺愛する気持ちも分かる」
娘を持つ父の気持ちを想像してみるが、いまいちピンと来ない。 「でも、その人形がぁ夜な夜なぁ歩き回るらしいのぉぉぉ」
また怪談調だ。まあ美樹のこういうところに惹かれたんだけど。
「まさか」と、僕は笑いながらカレーのルゥを割って鍋に入れ、コンロの火をつけ弱火にし、キッチンタイマーをセットする。
「金曜日の夜中に、その娘さんがクローゼットの中から音がするって、ご両親を起こしたのね。そしたら、一緒に寝てたはずの人形がクローゼットの中にいて大騒ぎ」
「そりゃ驚くだろうね」
「で、日曜の朝、起きたら人形が鏡台の前に座ってて、鏡に口紅で『返して』って書かれてた」
「見たの?」
「内線受けたの、私だったからね」
 焦げ付かないようにカレーを混ぜる。ふわりと部屋にいい匂いが漂う。
「部屋に上がったら、娘さんがわあわあ泣いて、『このお人形さん、もういらない。だから返してきて』って」
「やっぱり、大変なんだね」
「大変なんだよ」
とりあえず、美樹の怒りは収まったようだ。そして、ご飯が炊き上がる。
「その人形、最近買ったんだよね」
「そう言ってた」
「無理するくらい高かったのかな?」
「子供のおもちゃにしては、相当な金額だったんじゃない」
「チェックインの時、娘さんはフロントにいた?」
「ええ、いたけど」
「じゃあ、君とお母さんの話を聞いてたわけだ」
「なんの話?」
「病院の経営が大変とか、年に一回の旅行も厳しいとか、家族の思い出をもっと作りたいとか」

僕のカレーと君の謎

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