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声のパレット

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「今日のデザートだよ!」

ザハは、この声のパレットを使って、自分の声からパンや水を作り、なんとか生活していたのでした。
「じゃあ、あの壁のランプや、コップも?」
アーサーはききました。
「うん。ランプは、岩のすきまに住んでいる虫の声から作った。コップは、そこに生えている草の声から作ったのさ」
アーサーは、地面と壁の境い目から、遠慮がちに顔を出している草をながめました。
草は、サラサラと揺れて、挨拶してくれました。
「食べものがあるのは、助かったよ。ありがとう。でも…」
ずっとここにいるわけにはいきません。
しかし、穴の入り口は遠すぎるし、岩壁はツルツルで、アーサーはそこを上ることができません。
どうしようかと考えていると、突然、
「ギャーッ」
というけたたましい叫び声とともに、何かが落ちてきました。

アーサーとザハが、びっくりしてふりかえると、そこには、一羽のカラスと、いくつかのドングリがいました。
「鳥が落ちてくるなんて…。一体どうしたんだい」
ザハがたずねると、カラスがしゃがれ声で言いました。
「うるさいな、なんだい、お前は!昨夜の嵐で、羽にケガをしたんだよ!それで仕方なく地べたを歩いていたら、このざまだ」
アーサーは、思わず、手で耳をふさぎました。
カラスの声が、大嫌いだったのです。
(ああ、うるさいやつが来た)
「そうだったんだね、ごめんよ。僕はザハ。君は?」
「トーヤ」
カラスは、ぶっきらぼうに答えると、穴を見上げました。
ケガをしているので、穴まで飛んで、外に出ることはできません。
「そうか、トーヤ。よろしくね。気の毒だけど、しばらくここから出ることはできないよ」
ザハの言葉に、トーヤは怒り出しました。
「なんだって!いちいち、腹の立つことを言う子どもだね、お前は!」
ザハは、トーヤの怒った声を、パレットで受け止めました。
(あっ)
それを見ていたアーサーは、驚きました。
トーヤのうるさい声は、パレットの中で、金色に輝く絵の具に変わりました!
ザハは、その金色の絵の具を使って、首かざりの絵を描きました。
そして、その首かざりを壁から取り出すと、驚いて目を丸くしているトーヤの首にかけてあげました。
「僕たちは、しばらくここで、いっしょに暮らすしかないんだ。だから、仲良くしよう」
光ったものが大好きなトーヤは、金色の首かざりに大喜びです。
すると、トーヤの足もとに転がっていたドングリたちが、カタカタと音を立てて踊り始めました。
ザハは、その音をパレットで受け止めました。

声のパレット

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