テーマ:一人暮らし

シンデレラリミット

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□■room number 102 [K] 22:45□■□■□■□
ベッドに並ぶテディベアが半笑い。膝抱えてる私は半泣きだ。
携帯の連絡先一覧、『削除しますか?』の問いに、どうしても画面に向かう人差し指が動かない。正直、アイツに未練なんてミジンもない、はず。
顔は……まぁまぁ。あとは大体ダメ。バカだし。あたしより頭いいけど。変なとこ真面目だし。それに金ないし。
「友達に戻ろう」
何言ってんのよう。
なんなの? 何様? お殿様? ああだめだ。
腫れたまた目をこする。まだバシャバシャ涙が洪水だ。タオルで押さえる。
もうずっとこんなんだ。フラれて泣くんだもん本当アタマにくる。 
テーブルに置いた携帯の画面が消えた。
いつも電話を待っていた。かけてくれるから。
いつもLineを待っていた。送ってくれるから。
でも今は。
――登録を削除しますか? だって。もう、全部消えちゃえ。
何が削除よ。何を? 色々? 過去全部? そーねアイツごと削除してください神様! 
……まだ泣くか? まだ泣くのか、私。
もういいって。何度も自分に言い聞かせたのに。
なんでこんなに泣くんだろ。何がこんなにキツいんだろ。
あんな程度の男にフラれたからだ。絶対そうだ。あんな。あんなやつ、ハゲてしまえ。
バイトばっかでさ。気いつかってばっかでさ。
いいもん。遊んでくれる人なんか、たくさんいるもん。
たくさんいるんもん。
携帯を点けて、履歴を探る。指をどんどん滑らせる。
電話の履歴も、Lineも、アドレスも。ほらたくさん。男も女も私には……
「もう!」
勢い携帯をソファに投げつけて窓の外に出た。叫びだしそうだ。
声を殺してまた泣いた。まだまだまだまだ涙が出る。私ダムなんじゃないの?
なんで電話なんかで終わらそうとするんだろ、もう。そういうとこ、優しくないよね。傷つくとか思ってんだろうな。もうバカなんじゃないの、やっぱり。気の使い方おかしんだって。いつもいつもいつも。肝心な時はしゃべんないもんあいつ!
……もう。
涙を拭いて拭いて拭く。
くやしいなあ。やっぱりまだ好きなのかなあ。
七月の風が生ぬるい。
こすって痛いまぶたを開けるとモンシロチョウがのんきにひらひら飛んでいた。人の気も知らないで。
ねえ、ねえ。私の胸にもチョウチョがいるよ。ペンダントだけど。
もらったの。つい先月だよ?
なのに、昨日の電話で遠い思い出になっちゃった。いつかお詫びするからって。なにそれ。お詫びって何よ。私、そんなになんか偉そうだったのかな。

シンデレラリミット

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