テーマ:二次創作 / シンデレラ

物件と王子様、どちらもお願いします

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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すると私のツッコミにいやに納得した彼等は「ああそうね」などとお互いの顔を見合わせる。
「いやいや、そこ特に納得しなくていいから!そんな事よりこの状況の説明をお願い!」
言い出し辛そうにしている鶴子さん達を見て、父が口を開く。
「いやね、鶴子がな。お前が一人暮らしをするって言い出したことにショックを受けていて。でも、麗蘭の気持ちも分からなくないと。俺も麗蘭の気持ちが良く分かる。ちょうど麗蘭くらいの歳の頃に、父さんも一人暮らしに憧れたんだよ。実際してみて苦労も分かったし、そのお陰で母さんが亡くなった後、家事にそんなに困る事もなかった。だから、一人暮らしは一度経験してみるのも良いんじゃないかって、みんなで話していたんだ」
な、と姉達の方を父が向くと二人は淋しそうな顔こそしたものの、頷いてみせた。
「ただ、一人暮らしをするなら条件がある。まずはバイトを始めること。それから、物件探しは俺と鶴子さんにキチンと相談すること。一人暮らしを始めて、もし辛くなったら迷わずすぐに帰ってくること」
「父さん・・・みんな・・・」
じわりと私の目尻に熱いものがこみ上げて来る。
「さ、お腹空いたでしょ、夕飯にしましょ」
鶴子さんは、ボタボタと落ちる大粒の涙をエプロンで忙しなく拭いながらゆっくりと立ち上がる。
その日の夕飯は珍しく、私がスマホを触る事なく皆の顔を見て会話しながらとった。
「そう言えば、どうだった?何か気になる物件はあったの?麗蘭ちゃん」
「ん〜」
私は鶴子さんお手製のコロッケを口に頬張り今日一日の出来事を反芻する。
「まかせて安心な学習塾と、えっとそれから王子様がいて、あと最後は雉だったわね」
皆、暫し沈黙のなか、サクサクというコロッケを噛む音だけが部屋いっぱいになり響いていた。
「えーと、王子様という事は、素敵な男性が居たって事かしら麗蘭ちゃん」
残り3名が俯いたまま無言を貫くなか、鶴子さんだけがほんわりと笑顔で答える。
「うん、まぁね。そういやさ、父さんが鶴子さんを一目惚れしたのは分かるけど、鶴子さんはどうして父さんを好きになったの?」
その言葉に、父さんはいち早く反応し眉間にしわを寄せる。
「麗蘭、失礼だな〜」
「うふふ、そうよ。明彦さんはとっても素敵な方よ、麗蘭ちゃん」
ね、と二人は目を合わせ後、顔をデレッと緩ませながら微笑む。
「それにね、明彦さんに会ったのはあの病院が初めてじゃないの」
「え!?」
私の声に父さんのものも重なる。どうやらこの話は父も初耳だったらしい。

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