テーマ:二次創作 / シンデレラ

物件と王子様、どちらもお願いします

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

「あ、お母さん」
「母さん、麗蘭ちゃんがー」
二人の姉に出迎えられ入って来たのは、美人薄命を具現化した様な女性、私の継母だ。
「あらあら、どうしたの」
一日働き詰めだったにも関わらず、柔らかな笑みを浮かべる彼女。細い体にへばりつく萎れたシャツに、地味な膝丈スカートですら彼女の美しさを引き立てる魔法の道具に見える。
「麗蘭ちゃんが豚骨のバイトをするって!」
「豚骨のバイトって何よ!!豚骨ラーメン屋さんでしょ!!」
「え、アルバイトをするの?麗蘭ちゃん」
バサリとわざとらしく鞄を床に落とす継母。鞄からはくたびれたナース服がはみ出ていた。
「な・・・なによ、バイトくらい良いじゃない」
まつ毛がびっしりと生え揃った黒めがちな瞳から、今にも零れ落ちそうな涙を必死で堪えつつ彼女が私に一歩詰め寄る。その空気に押され、思わず後ずさりをしてしまった。
「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃ私の稼ぎが少ないからー」
ここでわぁっと泣き出し両手で顔を覆う。このパターンは、彼女おきまりのものだった。
(この人がこんな性格だから、ちっとも嫌いになれやしない)

 あの日、私の人生に大きな転機が起きた。それは、珍しく父が帰宅する私を家で待っていた事から始まる。
「あれ、父さんどうしたの?か、会社は?」
いつもヘラヘラしている父が、真面目な顔をしてダイニングテーブルに肘をつき座っている姿から、てっきり会社をクビになったのかと思った。
「麗蘭、話があるんだ」
「う、うん」
覚悟を決めながら、鞄を床に置くと父の正面に座る。
「ま、まずはケーキでも食べるか。お前の好きなガトーショコラを買ってきたんだ」
私の目の前には、ふわふわのホイップに小さなミントがのせられた濃厚なガトーショコラが一つ。ここで私はピンときた。父はこのケーキで私を買収する気なのだと。
「なにか頼み事があるのね」
じとりと横目で父を見ると、私は躊躇いも無くフォークをガトーショコラに刺した。
「さすが、分かってる〜レラちゃん」
そう言いつつ父はハンカチで額の汗を拭う。
「で?用件は?」
「じ、実は、いや、実はではないな。ほら、父さん胃潰瘍が出来て通院していただろ」
「うん、それで?」
「それで、何て言うか、その、そこの看護師さんとな、その」
かぁと耳まで赤くしている父に気付き、私はゾッとした。
(まさか)
そのまさか、だったのだ。父は通院していた病院の看護師と仲良くなり、そしてそのまま付き合う事になったというではないか。私が3歳の時、母を膵臓がんで亡くし、以来男手一つで育ててくれた父だ。ここは父の幸せを喜んであげるべきなのだろう。しかし、私は父の目を見る事なく「勝手にすれば」とだけ言い残し、部屋に籠ってしまった。これは私なりの『ノー』サインだったのだが、そんな些細な抵抗など何の意味も持たず、父はその人と再婚をし、更に同居などという暴挙にまで出たのである。

物件と王子様、どちらもお願いします

ページ: 1 2 3 4 5 6 7

この作品を
みんなにシェア

4月期作品のトップへ