
国の“重要無形文化財”に指定されている『結城紬(ゆうきつむぎ)』。
その製作には30以上もの工程があり、今でもそのすべてが手作業で行われている。
一つひとつの作業には熟練した技術と長い時間を要するため、それぞれの工程を専門の職人が請け負う“分業制”を採用することが一般的となっている。
その中で、製作工程の最終段階である“機織り(はたおり)”を専門に行う職人を『織り子』と呼ぶ。
結城紬が“重要無形文化財”となる要件は、製作工程に「糸紡ぎ(いとつむぎ)」、「絣括り(かすりくくり)」、「地機(じばた)による機織り(はたおり)」という3つの作業が含まれていること。つまり『織り子』は“重要無形文化財”となるための要の一つを担っているのである。
織り子が使う機織り機は『地機(じばた)』と呼ばれ、機織り機の中で最も原始的な仕組みであることが大きな特徴。
機(はた)には1,360本もの“たて糸”が巻かれており、この“たて糸”は織り子の足に結ばれた紐で操作され、足を引いたりすることで“たて糸”が上下に開く仕組みになっている。
上下に開いた“たて糸”の間に、重さ600gもある「杼(ひ)」という道具を使って“よこ糸”を通し、その「杼(ひ)」と、「筬(おさ)」という2つの道具を使って“よこ糸”を手前に打ち込み、“たて糸”と“よこ糸”を交互に織り込んでいく。一反の布にするには、この打ち込みを3万回以上繰り返さなければならない。
また「絣(かすり)」と呼ばれる柄の部分は、打ち込みに1ミリの誤差も許されない神経を集中させる部分であるため、打ち込む度に指で糸をなぞり、一本一本を柄に合わせながら織り進めなければならない。そのため、1日を費やしても10センチほどしか織れないこともあり、一反織るのに早くて1ヵ月、複雑な柄になると完成まで1年以上の歳月を費やすものもある。
こうした足や手での作業に加え、『地機(じばた)』にはもう一つ大きな特徴がある。それは、腰を使った作業。機に張られている“たて糸”を腰当てに直接結びつけ、腰の位置を調整しながら糸の張り具合に加減を施す。「結城紬」の持つ独特の柔らかな風合いは、使われている手紬糸(てつむぎいと)の伸縮性や繊細さという特性を腰を使って最大限引き出すことで生まれる。また、座る位置や腰の向きを少しでも誤れば布に歪みが生じ、真っ直ぐに織り進めることができなくなるなど機織りでは腰が重要な役割を果たすのである。
こうして織り上がった反物は、糸質、幅、長さ、打ち込み数、絣(かすり)模様のズレなど16項目ある厳しい検査を受ける。これに合格してはじめて“重要無形文化財「結城紬」”と認められるのだ。
織り子には、並々ならぬ体力と高度な技術、さらに手紬糸一本一本のわずかな太さの違いを見極める高い集中力の持続が求められる。千年以上変わることなく受け継がれる『結城紬』の伝統と技は、職人の信念とたゆまぬ努力によって守られているのである。

「真綿(まわた)」から手で紡いだ糸で織られるのが特徴の絹織物。
奈良時代に端を発し1200年もの歴史があるとされ、古来より伝わる道具をそのまま継承し、すべての工程を手作業で行うのが大きな特徴である。
主な生産地は鬼怒川を中心に栃木・茨城両県にまたがった地域となっている。この地域は、かつて絹村と呼ばれたほど養蚕が盛んで、養蚕業の副産物として織物が作られるようになったのが始まりとされる。
結城紬は、絹織物でありながら素朴な風合いを持ち、ふんわりと柔らかい手触りと張りが特徴。また軽くて温かく、着るほどに風合いが良くなり、体になじむと評されている。そして、「伝統の技法を現代に伝える唯一の紬」とも言われ、今日では最も高級な先染織物のひとつにあげられている。
見た目の素朴さからは想像することができない匠たちの技と魂の結晶、それが結城紬。
千年以上にわたり、職人によって受け継がれてきた伝統的、かつ高度な手法は、1956年に国の重要無形文化財に指定され、その名を全国に広めた。
そして今日も、多くの職人の手により、伝統が紡がれている。
真綿とは、絹の一種で、蚕の繭を煮て柔らかくし、水中で引き伸ばして“綿(わた)”にしたものを指す。繭を一つひとつ指で広げ、それを5〜6枚重ね、さらに広げ袋状したものは「袋真綿(ふくろまわた)」と呼ばれる。そして真綿をつくる作業を「真綿かけ」という。
結城紬には、より細かく強い糸を取れる真綿が求められ、上質な真綿を作るには豊富な経験と技術を要する。
真綿を「つくし」という道具に巻きつけて糸を引き出し、指に唾液をつけながら糸を紡ぐ作業。通常、糸は強い撚りをかけることで強度を増すが、結城紬の糸は世界に類を見ない無撚糸。なお、一反分の糸を紡ぐには2〜3ヵ月を要し、また織る糸の種類によって太さを変え、また太さにムラが生じないよう紡がなければならないため、「糸紡ぎ」の技術を修得するには多年の修行が必要とされている。
所々に擦れたような細かい“絣模様(かすりもよう)”を織るために糸に施す作業。
柄の図案を基に、絣の柄となる部分に印を付け木綿糸で縛ることで、その部分だけ色が染まっていない糸を作ることができる。
通常の染色された糸と絣括りが施された糸が、織り子の手により機織り機で織り込まれていくことで“絣模様”が出来上がる。
絣括りは、たった1ミリの誤差が仕上がりを左右してしまう極めて繊細な作業。また、単純な柄であっても3ヵ月の時間を要し、複雑な柄となると、この作業だけで気が遠くなるほどの年月を費やすこともある。