
木工芸品“箱根寄木細工(はこねよせぎざいく)”の特徴は、50種類以上の樹木を使い、その自然の色を組み合わせることで緻密かつ多彩な幾何学紋様を作り出すことにある。その他に類を見ない独自の工芸技術を受け継ぎ、習得した者が箱根寄木細工職人である。
寄木細工の製作は、「選材(せんざい)」という作業から始まる。
寄木の紋様は多種多様で、寄木細工が誕生した頃の代表的な紋様である「乱寄木(らんよせぎ)」や、伝統的で人気の高い「六角麻の葉(ろっかくあさのは)」、「矢羽根(やばね)」、「紗綾型(さやがた)」など、全部でおよそ100種類があるとされ、「選材」とは、これら多様な紋様の中から、職人が製作する紋様をイメージし、そのデザインに必要な樹木を選び出すことである。
その後、選んだ木を鉋で必要な厚みに削り、重ね合わせて接着し、万力で締めつける。これが紋様の「基礎材」となる。
そして、寄木細工の象徴とも言える連続紋様の元となり、間違いの許されない重要な工程が「単位紋様作り」である。紋様の「基礎材」を2つ、4つと順番に寄せ合わせて接着し、紋様を拡大していく。これを「単位紋様」と呼び、この紋様を正確に仕上げるためには、寸分の狂いなく木材を削り、「基礎材」同士を透き間なく張り合わせなければならない。
この「単位紋様作り」の出来が作品全体の仕上がりを左右すると言われている。
単位紋様が出来あがると一定の長さに切断し、複数を寄せ合わせて接着することで「連続紋様」を作り、それを更に複数寄せ合わせて接着する。この作業を繰り返すことで、連続紋様を拡大し、より大きな連続紋様を作り上げていく。こうして出来上がったものを「種木(たねぎ)」という。
そして、「単位紋様作り」と同様に重要なのが、「ヅク」を作る工程。「ヅク」は種木を鉋で薄く削ったもので、求められる厚さはたったの0.15ミリ。しかし、ただ薄く削れば良いという訳ではなく、全体の厚みが均等になることも重要となる。薄く全体の厚みが均等な「ヅク」を作るためには、鉋の刃を指先の感覚を頼りにミリ単位で調整しなければならない。この調整の精度が、作品の仕上がりに大きな差を生むのである。こうした数ある工程を経て出来上がった「ヅク」を小箱などに貼り付け、ようやく箱根寄木細工が完成する。
寄木細工職人には、木を切りだす緻密な角度調整や採寸の正確さ、接着技術など、様々な熟練した技が求められる。「寄木細工の一人前の職人になるには、10年かかる」と言われる所以である。

樹木が持つ自然の色合いを生かし緻密な幾何学紋様を作り、小箱などに張り付ける日本でも他に類を見ない独特の木工芸品が箱根寄木細工である。
今からおよそ200年前、江戸時代後期に箱根畑宿の「石川仁兵衛」が発案したとされ、種類が豊富な箱根周辺の樹木を用い、色の異なる様々な木を寄せ合わせて盆や箱を作ったことが、その始まりと伝えられている。
寄木の紋様は当初、「乱寄木」など単純な紋様が主流だったが、明治時代になって技術が発展し、複雑な連続紋様が作られるようになった。昭和初期には「ヅク」と呼ばれる寄木紋様の表面を鉋で薄く削りだす新たな技法が開発され、その後、多くの継承者の手によってオリジナルの紋様が次々と生み出され、今日に至っている。
小田原箱根が国内で唯一の産地で、1984年には国の「伝統的工芸品」に指定され、箱や盆、小箪笥など、さまざまな製品が作られている。意外と知られていないが、箱根駅伝の往路優勝校に箱根町が贈呈している優勝トロフィーもこの箱根寄木細工で作られている。
「乱寄木」、「六角麻の葉」など、およそ100種類あるといわれる様々な紋様を、いくつも組み合わせたもの。小寄木作りは、それぞれの紋様や色、貼り付ける製品とのバランスなど様々なことを考慮して構成されるため、職人としての豊富な経験や、その中で培った優れた感性が求められる。
様々な木材を色や木目を生かしながら寄せ合わせ、精緻な幾何学文様を作り出したもの。寄木の基礎となる単位紋様をさらに接着し、その作業を繰り返しながら、より大きな連続文様を作り出していく。
種木を鉋で紙のように薄く削った寄木。元々は特別な鉋を用いて手作業で削っていたが、現代では機械で削るのが一般的。しかし、1ミリにも満たない厚さに削っていく作業は全てが機械任せとはいかず、鉋の刃を指先の感覚を頼りにきちんと調整しなければ、厚みに狂いが生じる。
寄木細工の製作においては、要となる工程である。