
蛭谷和紙の特徴は、昔ながらの技法を忠実に守り続けていることにある。原料の栽培から紙漉き(かみすき)まで、すべての工程を職人自らが行うのである。
蛭谷和紙作りは四季折々の自然と共にある。
春、畑に「トロロアオイ」の種を蒔く。
夏、里山で薪を採りながら、トロロアオイの畑を手入れし、紙漉きに必要な「根」の部分を大切に育てる。
秋、里山に自生する『楮(コウゾ)』を採りにいく。そして、伐採した楮を蒸して軟らかくし、皮を剥ぐ。皮の内側にある白い部分のみが和紙の原料となるため、表面の皮を丁寧に削り取り、腐らないよう天日で干す。こうして半年以上かけて準備した自然の恵みが、冬の紙漉きを経て蛭谷和紙となる。
冬、紙漉きは厳しい寒さの中で行われる。まず紙の繊維となる楮を水につけ、半日ほど煮る。この時、薪を燃やして作った灰汁を混ぜることで、柔らく丈夫な繊維になる。これを水洗いし、木槌でひたすら叩き繊維を細かくほぐしていく。
次は紙漉き。ほぐした繊維を水の中で前後左右にと動かすことで和紙を形作っていく。この時、トロロアオイの根から出る粘液を加える。トロロアオイの粘液が楮の繊維をまんべんなく水中に分散させ、繊維量のバランスが取れた美しい紙に仕上がる。
そして、紙に重しを乗せ数時間かけて水分を搾り出していく。
最後に、一枚一枚丁寧にはがし、熱した板に張り付け、シワを伸ばし、水分を蒸発させて完成となる。
里山と寄り添いながらの和紙作り。400年もの間、先人たちが守り続けてきた知恵と技術を、たった一人となった若き職人が後世へと受け継いでいる。

「蛭谷和紙」は、富山県内の「八尾和紙」、「五箇山和紙」とともに『越中和紙』と総称され、国の伝統工芸品に認定されている。400年近い伝統があると言われ、かつては100軒余りの工房があった。しかし、紙の需要の変化に伴い、紙を漉く職人が減少、現在はたった一軒(一人)となっている。
天然の材料で丁寧に漉き上げた蛭谷和紙は、1,000年以上保存できると言われるほどの優れた耐久性と、強靭かつ柔らかな特性が際立つ。そして蛭谷和紙の最大の特徴は、何といっても完成までの道程にある。材料となるトロロアオイを育てることから紙漉きまで、すべての工程を昔ながらの手作業で行う和紙の産地は、今やほとんどない。
アオイ科トロロアオイ属の植物。別名「花オクラ」とも呼ばれ、夏に大きな黄色い花を咲かせる。根から採取できる粘液は、古くから紙漉きの「ねり」として、美しい紙を漉くために用いられ、原料の繊維1本1本を水中にムラ無く分散させる重要な役割を果たす。
トロロアオイの粘液は腐りやすく、夏場は粘り気を発しない。紙漉きが冬の寒さ厳しい時期に行われるのは、こうした理由がある。
クワ科の落葉低木で、古くから和紙の原料として使われている。
繊維は太く、長く、かつ強靭であるため、幅広い用途の紙の原料として用いられている。
外側は黒い皮で覆われているが、これをきれいに取り除くことで、美しい白い紙が出来上がる。