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#034 加茂桐たんす職人 酒井 裕行

加茂桐たんす職人

Kamokiritansu-shokunin

酒井 裕行

Sakai Hiroyuki

プロフィール

1984年新潟県生まれ

早稲田大学理工学部で機械工学に没頭し、自動車メーカーのエンジニアになることを目指していたが、ある作家の木工品との出会いをきっかけに“木”の魅力に惹きつけられ、「たんす職人」になることを決意。そして、卒業を目前にした4年生の秋に大学を中退し、日本屈指のたんす生産地である新潟県加茂市の茂野タンス店に入社。以来、代々受け継がれてきた技術を習得するための日々が続く。

たんす職人になろうとした、きっかけは?

幼い頃に一番好きだったのが「ブロック遊び」でした。組み立て方によって、さまざまに形を変えていくことが面白かったんです。今思うと、この頃から“立体”に興味を持つようになったのかもしれません。
中学校では数学と美術が大好きで、数学では図形から答えを導くような問題、美術では工作が楽しくて仕方ありませんでした。そして、高校に入る頃には、機械工学への関心が高まり、将来は「自動車メーカーのエンジニアになりたい」という夢を抱くようになっていました。
その後、大学では「エンジニア」を目指して機械工学の勉強に没頭する毎日を送っていましたが、ある日のこと、たまたま通りがかった店先で、ある作家さんの木工品に目が留まったんです。
釘付けになりましたね。木の優しい色合い、柔らかな形、温もり、優れた職人の技、全てが魅力的で、それまで金属のことばかり考えていた自分にとって、あまりにも新鮮な発見でした。
今でもその時の胸の高鳴りを覚えています。そして、「この出会いは、これからの自分を大きく変える」と、直感しました。
それからは、木で何かを作り上げてみたいという思いが日増しに強くなり、もう居ても立ってもいられず木工品に関するあらゆることを調べました。その結果、自分が身を置きたい場所として選んだのが「たんす職人」だったんです。

どんなたんす職人になりたいですか?

お客さんから信頼され、納めた時に心から喜んでいただける、そんな魅力的なたんすが作れる職人になりたいです。でもまだ勉強の毎日なので、だいぶ先のことにはなりますけど(笑)。
今は先輩の技を見て、自分では「いい」と思っていたことが間違っていることに気付いたり、新しいことを発見したりする毎日です。そして壁にぶつかることの連続ですが、それでも少しずつ解決して身に付けようと努力しています。
いつかは「加茂桐たんす」の伝統を重んじつつ、たんすに自分らしさを表現できるようになりたいですね。そして、次の世代に加茂の優れた技術を伝えていければと思っています。

先輩職人 伝統工芸士 坪谷哲男さん インタビュー

酒井さんは、どんな職人ですか?

初めて会った時の彼の印象ですが、これまで見てきた若い人とは明らかに目の輝きが違っていましたね。工房にある全ての物に興味を持ち、積極的でしたから。このままいけば、きっといい職人になれると思っていました。
そして、「やる気があるから、上達する。上達するから、またやる気がでる」を彼は繰り返しています。その結果、彼は同じ時期に入門した若者より、3年くらい先を行っているかもしれません。
これからは、自分なりのやり方を見つけてほしいと思っています。技術の基本は受け継いだものでも、細かい手法は職人一人一人が自分なりに身につけたものですから。
私のやり方が彼にとって、決して正しいとは限りません。その見極めが大事です。
でも彼なら、きっと自分なりの技術が確立できると思います。

取材を終えて・・・

早稲田大学理工学部で最先端の技術を追究していた酒井さんが、木の奥深さや、代々受け継がれてきた職人の優れた技術に魅せられ、卒業間近の大学を中退してまで飛び込んだ「たんす職人」という世界。
「とにかく木が好きなんです。理屈じゃなくて。木に触れていると時間が経つことさえ忘れますから」と屈託のない笑顔で話す姿を見て、その純粋で直感的な気持ちこそが、揺るがない彼の行動の源なのだろうと感じました。