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#027 能装束 織師 筒井 謙丞

能装束 織師

Noshozoku Orishi

筒井 謙丞

Tsutsui Kensuke

プロフィール

1983年京都府生まれ

両親が服飾関係の仕事をしていた影響もあり、一度は洋服販売の職に就くが、22歳の時、能装束の制作現場を訪れ、その世界を肌で感じたことをきっかけに、織師という職に魅了される。そして、強い思いを胸に能装束制作の名門、佐々木能衣装の門を叩いた。居並ぶ先輩職人の熟練技を肌で感じながら、技術を磨く日々を送っている。

能装束の織師になろうと決めたきっかけは?

筒井さん:22歳の頃は、まったく別の仕事をしていたんです。
そして、特に深い考えもなく、単に「一度、西陣織を作っている現場を見てみたいなぁ」くらいの軽い気持ちで、佐々木さんを知る親戚を通じて工房を見学させてほしいとお願いしたんです。もちろん、ここの職人になりたい、なんて考えはこの時まったくありませんでした。
ところが、仕事場に入った途端、まさに体に電気が走ったんです。
その時は、工房内に誰もいなくて、ただ機(はた)だけが静かに目に入ってきました。
それは圧倒的な存在感でした。
その機が動く姿を見たい、そして自分で機を動かし織りを習得したい、と強く思ったんです。
うまく言葉では表現できないのですが、その時の自分の思いや感覚には不思議と自信がありました。そして、自分を信じて、翌日正式に入門をお願いしに行きました。

入門して辛いと思ったことは?

筒井さん:辛いと思ったことは・・・ですか?そうですね…まだ織りをやりたいのに終業の時間が来てしまうことくらいですかね(笑)
失敗もあるんですけど、それを乗り越えて成長できる毎日が楽しくてしょうがないんです。そして、まだまだ満足できるものを織り上げていないので、もっともっと頑張らないと。
この道何十年の、尊敬する大先輩たちでさえ、いまだに「まだまだ満足できない」とおっしゃっているので、自分はその何倍も何十倍も努力しないと、って思っています。

装束を作るにあたって心がけていることは?

筒井さん:常にこの装束を身に付けられる方のことを思って織りを進めています。
見た目はもちろん重要ですから意識をすることは当然です。でも、能の衣装は実用品ですから、舞台の上で、演者の方がより演じやすいよう、表現しやすいよう、少しでも軽く、柔らかく作るよう考えています。
それには手間も時間もかかります。しかし、そこを省いたり、手を抜いてしまったりしては、本当の意味での“良い物”は作れません。
他には、どこの部分に一番いい色を持ってきたらより引き立つか、より効果的かを考えるために、実際に能の舞台を見て勉強したりもしています。
少しでも自分が作ったものが舞台上で、演者の方のお役に立てればと思っています。
入門して6年が経ちますが、先輩方はまだまだ遠い存在です。でも、機織りの仕事が好きだ、という気持ちだけは負けないつもりです。
初めて工房に入った時の気持ちを決して忘れることなく、これからも日々、精進したいと思っています。

先輩職人 橋本紀一さん インタビュー

筒井さんの仕事ぶりはどうですか?

橋本さん:とても良くやっていると思います。仕事に対してまじめなことはもちろんなんですが、“機織りが好きだ”という強い気持ちを、彼の仕事ぶりを見て感じています。
日々、勉強するだけでなく、自分なりの感覚を取り入れて工夫し、努力している。
私は70歳になりますが、私自身、まだまだです。この仕事に終わりはありません。
一生、勉強です。
彼も私も同じ織師という職人です。お互い切磋琢磨して頑張っていきたいです。

社長 佐々木洋次さんインタビュー

職人になりたいと告げられた時のお気持ちは?

佐々木さん:正直なところ、最初はどうかな?と思いましたね(笑)
年も若いし、今までの私の経験上、長く続くかどうかの確信が持てませんでした。
ただ、“この仕事をやりたい”という彼の目は真剣でしたし、強い思いが伝わってきました。
いざ仕事を始めると、手先は器用だし、色彩の感覚・感性も良いな、と感じるようになりました。洋服も繊維を扱うという点では一緒ですから、長年服飾に携わっていた経験が役に立っているのかもしれませんね。
しかし、この仕事は、手先の技術だけが問題ではありません。大切なのは、いかに良い物を、頭の中で考え、それをどう織物に表現するかです。そのことを理解している今の彼なら、将来きっといい職人になる、そう思っています。期待しています。

編集後記

古き良き伝統が今も残る京都の街で、その空気を常に肌で感じながら育った筒井さん。
伝統を重んじながらも新しいものを吸収するバランス感覚を最も大事にしている若者。
工房ではひたすら技を磨き、心を込め織り込む姿が印象的だ。
この仕事への情熱を感じさせる眼差し。先人たちの魂を受継ぐ若者がここにいる。

家に帰れば良き夫、そして良き父。趣味でピアノも弾きこなす。
仕事場とは違う優しい眼差しが、そこにあった。