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#020 つげ櫛職人 森 英明

つげ櫛職人

Tsugegushi-Shokunin

森 英明

Mori Hideaki

プロフィール

1983年愛知県生まれ

100年以上続く「つげ櫛」の老舗『櫛留商店』の三男として生まれる。兄2人が家業を継ぐことなく独立する中、つげ櫛の素晴らしさに気付き、その伝統を守るべく、職人になることを決意。大学卒業後、父である三代目・森信吾氏に弟子入り。代々伝わる匠の技を継承すべく、研鑽の日々を送っている。

つげ櫛職人の仕事

奈良時代からすでに製造されていたと言われる『つげ櫛』。
その特徴は、丈夫で長持ちすること。そして、梳(と)かしても髪を傷めることなく、かつ、頭皮に心地良い刺激を与える梳ぎ心地の良さにある。“つげの板”からこれらの優れた特性を生み出すのが「つげ櫛職人」である。

つげ櫛の製作は、原材料のつげの板を「乾燥」させる工程から始まる。まず、製材されたつげの板を紐で結び、室内に吊るして1年ほど陰干しを行い、木に含まれている水分を出す。
次に、つげの板を束にし、隙間なく鉄の“タガ”にはめ込み、かまどに入れて燻す「燻乾燥」を行う。これにより、水分を出したことで生じたつげの板の反りを矯正していく。3ヵ月燻したら、再び3ヵ月陰干しをし、それをまた燻し、さらに陰干しするという作業を5年間も繰り返すことで、堅く真っ直ぐな“櫛板”が出来上がる。中には櫛板が出来上がるまでに10年の歳月を要する場合もあるという。

燻され黒くなった櫛板の表面をかんなで削った後に、鋸を使い板に歯を一本一本入れていく「歯作り」を行う。ガイドとなる木型に沿って等間隔に直線を引いていく。やり直しがきかないため、一瞬も気を抜くことができない作業が続く。

「歯作り」を終えると、最も難しく、櫛作りの命とも言われる作業「歯ずり」を行う。
これは、櫛の歯の角を取り、頭皮に接する歯先を梳かした際に心地良い刺激が生じる太さに磨き上げる作業で、工程は「荒ずり」「中ずり」「仕上げずり」の3段階に分かれ、使う道具もそれぞれ異なる。
「荒ずり」では粗目の紙やすりを貼り付けた“歯ずり棒”で大まかに、「中ずり」では木にやや細かい目の紙やすりを貼り付けた歯ずり棒を用いて磨く。「仕上げずり」では植物の“トクサ(砥草)”を貼った歯ずり棒を用い、歯の表面を細かく丁寧に磨き、滑らかに仕上げていく。
「歯ずり」は同じ速度、同じテンポで磨いていかないと歯の太さや角度にバラつきが生じてしまう。全神経を集中し、均等に、そして確実に磨いていくことは容易ではない。
歯の太さが均一に揃い、心地良く梳ける櫛を作るためには、櫛の歯一本一本に魂を込め何千回も磨く作業が必要となり、豊富な経験と鍛錬された技術、そして忍耐が求められる。

「歯ずり」を終えると鋸で成形し、かんなで表面を整え、さらに磨きをかける。
そして刻印を入れた後、油を染み込ませた布で包み、1ヵ月ほど寝かせ完成となる。

しっとりと髪に馴染み、梳かすたびに頭皮に心地良い刺激を与える「つげ櫛」。
この変わることない伝統の製法は、技術を超えた「櫛と向き合う職人たちの心」によって守り続けられている。

つげ櫛とは…

櫛は頭髪を梳かす調度品であると同時に、髪に挿して飾る装飾品として古くから木材や鼈甲、象牙などで作られてきた。
中でもつげ櫛は、『万葉集』や『源氏物語』にも記述がある、つげの木を原料とする伝統ある櫛で、材質が堅いにも関わらず、粘り気や弾力性があるため、丈夫で歯が折れにくい。また静電気が生じにくいため髪を傷めず、さらに頭皮に心地良い刺激を与える。こうしたことから、古くから櫛の最上級品として扱われている。
特に国産のつげを使い、かつ優秀な職人の手により丁寧に作られたつげ櫛は、使い込むほどに、見た目が艶のある美しい飴色に変わり、櫛どおりもより滑らかになる。高価な品ではあるが、“一生モノ”と評されるほど丈夫で使いやすいため、親から子へと代々受け継がれることも多いという。
近年は、プラスチック製品ブラシのシェア拡大と後継者不足から、つげ櫛職人は年々減少し、中でも、全ての工程を手作業で行っている職人は僅か数軒となっている。