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#008 面打師 新井 達矢

面打師

Menuchishi

新井 達矢

Arai Tatsuya

プロフィール

1982年東京都生まれ

幼い頃、祭りで着けた面に強い興味を抱く。6歳の頃、面打ちの大家・長澤氏春氏(無形文化財選定保存技術保持者)との出会いをきっかけに、本格的に面を打つようになり、その後、長澤氏に師事する。そして、22歳の時、「新作能面公募展」に出品した『万媚(まんび)』が高い評価を受け、「文部科学大臣賞奨励賞」を史上最年少で受賞する快挙を成し遂げた。

面打師(めんうちし)とは…

日本が世界に誇る伝統芸能『能楽』。
面打師とは、この『能楽』の「能」や「狂言」に欠かせない伝統的な「面(おもて)」を作り上げる職人を指し、その仕事とは、『本面』と呼ばれ古くから伝わる面を徹底して“写す”ことにある。そして「面を打つ」とは、木を「彫り」、面に「彩色」する作業を指す。

「彫り」は、まず面の大きさに合わせて角材を切り出し、面型の輪郭線を描き、輪郭線に沿ってナタや鋸で余分な部分を落とす“木取り”を行うことから始まる。
次に『本面』の実物や写真、採寸した型紙を元に、ノミを使って“粗彫り”を施し、全体の形を見ながら鼻や顎、額を立体的に彫り出していく。この“粗彫り”によって面全体の造形や表情が決まる。そして、平刀や印刀を用い、目、鼻、口といった細かな部分を丁寧、かつ慎重に彫り上げていく。その後、刃先を細かく使い、木地の表面を平らに仕上げるとともに、裏も彫り進め、最後に、演者の汗や皮脂から面を保護するため、裏面に漆を塗る。

「彩色」は、まず“下地塗り”として、胡粉を均一に塗り、乾いたらサンドペーパーで磨き、表面を滑らかに整える。この作業を何度も繰り返し、白く滑らかな下地を作り上げていく。この仕上がりが、出来映えに大きく影響する。
次は“上塗り”。胡粉に顔料を混ぜて肌の色を作り、面の特性に応じて塗り重ねていく。
そして、伝統の美しさを付加する「古び」を出すために、上塗りの仕上がった肌に“古色”を施す。“古色”が面に馴染んだ後に、目、唇、歯に彩色を施し、眉や髪の部分を細かく描く“毛描き”を行う。
最後に全体や細かい部分を見ながら色調を少しずつ整え、面は完成となる。

元となる『本面』を忠実に再現しつつも、面打師の感性や技により、その表情にかなりの違いが出るといわれている。優れた古面からその奥義を学び、さらに深みのある面へと仕上げる優れた面打師の手によって、伝統の美しさは後世へと受け継がれていく。

面の種類

面には、能で使う「能面」、狂言で使う「狂言面」の他、神楽(かぐら)で使われる「神楽面」などがあり、それぞれ特徴が異なる。
「能面」は、原型となっているもののほとんどが桃山期までに完成したといわれ、これらが『本面』として江戸期を経て現代まで、代々「写し」により継承されている。
「能面」の分類方法はいくつかあるが、大きく「神・男・女・狂・鬼」に分かれ、全部で200〜250種類くらいあるといわれている。若い女性を表現する『小面(こおもて)』や、怒りや悲しみを表現した鬼女の面である『般若(はんにゃ)』などは一般的に広く知られている。また、能の中でも特別に神聖視された演目である『翁』で使われる『翁面』は、昔、神が老人の姿で舞った姿を表し、能面の中では最も古いといわれている。
「能面」は一見無表情の様でありながら、無限の表情があるといわれるのは、ちょっとした面の動きや光の具合などで、喜びや悲しみ、また怒りや恨み、妖艶さなどを生み出すことができるからである。
面打師はさまざまな感情を表現すべく、常に面の見方を変え、見え方を意識しながら、面を打つのである。